
こんにちは。療育支援者の学校 主宰の西村猛(理学療法士・児発管)です。
療育・発達支援の仕事をしていると、「転職しようかな」と考えることはあると思います。
給与や勤務条件の問題もあれば、人間関係、事業所の支援方針、管理者との考え方の違いなど、理由はさまざまです。
もちろん、転職すること自体が悪いわけではありません。
実際、今の職場を離れた方がいいケースもありますし、環境を変えたことで自分の専門性を発揮できるようになったり、支援者として大きく成長できたりする人もいます。
ただ、いろいろな支援者を見ていると、少し気になることがあります。
転職によって状況が大きく変わる人がいる一方で、職場を変えても同じような悩みを繰り返してしまう人がいるということです。
この違いは、どこにあるのでしょうか。
今回は「どんな事業所に転職すればいいのか」という話ではなく、転職する前に支援者自身が考えておきたいことについて書いてみたいと思います。
転職すれば、問題は解決するのか
今の職場に不満があると、どうしても原因を職場側に求めたくなります。
「自分のことを評価してくれない」
「やりたい支援をさせてもらえない」
「管理者が分かってくれない」
「もっと専門性を生かせるところで働きたい」
こうした不満そのものが間違っているわけではありません。
実際に、組織側に問題があることも当然あります。
ただ、ここで一度考えてほしいことがあります。
その問題は、本当に職場を変えることで解決する問題でしょうか。
たとえば、「自分の専門性を生かせない」という不満があったとします。
そのとき、「専門性を生かさせてくれない職場が悪い」と考えることもできます。
一方で、「自分は組織の中で、どのような役割を担おうとしてきただろう」「自分の専門性が必要だと周囲に理解してもらうために、何をしてきただろう」「自分の知識や技術を、他職種にも分かる形で伝えられていただろうか」という見方もできます。
この視点を持たないまま転職すると、転職先でも同じことが起こる可能性があります。
職場は変わったけれど、「分かってもらえない」という状況(不安)は変わらない。
そして、「ここも自分には合わない」と、また次の職場を探すことになります。
転職で大切なのは「自分を見る力」
私は、転職を考えるときに重要になる力の一つがメタ認知だと思っています。
メタ認知とは、簡単にいえば、自分自身を少し離れたところから見る力です。
自分が何を考えているのか。なぜ不満を感じているのか。自分は周囲からどのように見えているのか。今起きている問題に、自分自身はどのように関係しているのか。
こうしたことを考えます。
これは療育にも通じるところがあります。
子どもがうまくできないときに、「この子には問題がある」と考えるだけでは、良い支援にはつながりません。
課題の設定は適切だったのか、環境は合っていたのか、こちらの関わり方はどうだったのか、と支援者側も含めて状況全体を評価します。
キャリアについても同じです。
職場だけを評価するのではなく、自分自身も評価の対象に入れる必要があります。
「してくれない」だけになっていないか
転職について相談を受けていると、「○○してくれない」という言葉が続くことがあります。
評価してくれない。教えてくれない。成長させてくれない。希望を聞いてくれない。専門性を生かしてくれない。
もちろん、職場には職員を育成する責任がありますし、適切なマネジメントも必要です。
しかし、キャリア形成をすべて勤務先に委ねることもできません。
ここで考えたいのが、「自分はその職場に何を求めているのか」と同時に、「自分はその職場に何を提供できるのか」ということです。
転職先は、自分の希望をすべて満たしてくれる場所ではありません。
自分もその組織をつくる一人になります。
「こんな環境で働きたい」だけではなく、「その環境の中で自分はどんな役割を担えるのか」まで考えられる人の方が、転職後もうまくいきやすいのではないかと思います。
転職でうまくいく人は「役割」を考えている
たとえば、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのセラピストが療育事業所へ転職したとします。
「私はPTだから運動を担当します」
「私はSTだから言語訓練をします」
これだけでは、組織の中で専門性が十分に生かされるとは限りません。
療育は、多職種で子どもを支える仕事だからです。
保育士、児童指導員、児発管など、さまざまな職種と一緒に働きます。
その中で、「自分の専門性を、この事業所ではどのように生かせるだろう」「保育士さんが見ている子どもの姿と、自分の専門的な評価をどうつなげよう」「自分が持っている知識を、チーム全体の支援の質につなげるにはどうすればいいだろう」と考えられる人は、自分の役割をつくっていくことができます。
もちろん、セラピストに限りません。
保育士でも、児童指導員でも、児発管でも同じです。
職場から役割を与えてもらうだけではなく、自分がその組織の中でどんな価値を提供できるのかを考える。
この視点は、転職後の働き方にかなり大きく影響すると思います。
「合わない職場から離れる」と「自分に合う職場を選ぶ」は違う
もう一つ重要なのは、転職理由です。
「今の職場が嫌だから辞める」
これは転職のきっかけにはなります。
ただ、それだけでは次の職場を選ぶ基準にはなりません。
今の職場の何が合わなかったのか。次の職場では何を大切にしたいのか。自分はどのような支援をしたいのか。どのような組織文化なら力を発揮しやすいのか。どんな働き方をしたいのか。
ここまで整理して初めて、「では、どんな職場を選ぶのか」が見えてきます。
つまり、「今の職場から離れたい」と「次に行きたい職場がある」は別の話です。
ここを混同すると、「今より良さそう」というだけで転職先を決めてしまいます。
ところが、入職してしばらくすると、当然その職場にも課題が見えてきます。
完璧な職場はありません。
そこでまた「思っていたのと違った」となれば、転職を繰り返すことになります。
転職する前に、一度整理してみてほしいこと
もし今、転職を考えているのであれば、求人を見る前に一度整理してみてください。
「今の職場の何が嫌なのか」だけではなく、
- 今の職場で困っていることは何か
- その問題は職場を変えれば解決するのか
- 自分自身に改善できる部分はないか
- 次の職場で何を実現したいのか
- 自分はその職場に何を提供できるのか
- 3年後、5年後にどんな支援者になっていたいのか
このあたりまで考えてみると、転職の意味がかなり変わってくると思います。
場合によっては、「もう少し今の職場でやってみよう」という結論になるかもしれません。
反対に、「やはりここでは自分の目指すキャリアは実現できない」と、転職する理由がより明確になることもあります。
どちらでもいいのです。
大切なのは、感情だけで職場を変えるのではなく、自分なりの理由を持って選択することです。
転職は「逃げ」でも「成功」でもない
転職そのものを良いこと、悪いことと評価する必要はないと思っています。
合わない環境から離れることが必要な場合もあります。
より自分の専門性を生かせる環境へ移ることで、大きく成長する人もいます。
一方で、職場を変えるだけでは解決しない問題もあります。
だからこそ、転職を考えたときには「この職場はどうなのか」だけではなく、「自分はどうなのか」も同時に考えてみてほしいと思います。
自分は何を大切にして働きたいのか。
どんな支援者になりたいのか。
そのために、今の職場でできることは何なのか。
そして、環境を変える必要があるとすれば、次の職場でどんな役割を担いたいのか。
ここまで考えた上での転職であれば、単なる「職場を変える」という話ではなくなります。
転職を、自分のキャリアをつくるための選択にする。
療育・発達支援という仕事を長く続けていくためにも、転職を考えたときこそ、自分自身の働き方や支援者としてのあり方を見直す機会にしてほしいと思います。
療育支援者の学校では、療育・発達支援の現場で働く方に向けて、支援技術だけではなく、支援者としての考え方や学び方、キャリアについても発信していきます。
「明日の支援に理由を持とう。」
日々の実践を振り返りながら、一緒に支援について考えていきましょう。

